You are currently viewing 最低賃金の大幅な引き上げ

最低賃金の大幅な引き上げ

今回は、令和6年10月から適用される最低賃金の大幅な引き上げについて解説します。福岡県の最低賃金は、令和695日に引上げ決定が発表され、令和6年度の福岡県最低賃金は992円となりました。近時、最低賃金の大幅なアップが毎年続いていますが、今年のアップは昨年比51円アップ(5.42%)とかつてない大幅な引き上げになっています。 

今回の最低賃金引上げは、これで終わりということではなく、一過性のものでないことが更に要注意となっています。今後の最低賃金の方向性について、岸田首相は2023年8月31日の新しい資本主義実現会議にて、2030年半ばまでに全国の加重平均1,500円を目指す旨を表明しています。なお、2024年の最低賃金改定後の全国の最低賃金の加重平均額は1,055円となっており、今後も上記の政府目標が堅持された場合は、残り10年ちょっとで445円の全国加重平均のアップとなります。 

(以下、福岡県の最低賃金推移) 

福岡県の最低賃金推移をみると、2015年(743円)⇒2025年(992円)の差が249円であることを考えると、2030年半ばまでの全国加重平均を1,500円にするという目標がいかにとんでもない目標であるかが良く分かると思います。とはいえ、実際に実現するかはさておき、今後の最低賃金の引上げ方向については絶対に間違いない方向性であるのは確かです。 

 

まず、今年の10月に備えて各医療機関が行うべきことは、時給者が最低賃金を割っていないか確認することは勿論ですが、これだけの賃上げとなった場合、「月給職員」(特に事務・経理・総務といった資格手当等の支給も通常ない職種)が最低賃金割れにならないかを早急に確認する必要があります。 

最低賃金の対象か否かは以下をご参照頂きたいのですが、 

【最低賃金の対象となる賃金】 

【最低賃金の対象とならない賃金】 

(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など) 

(2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など) 

(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など) 

(4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など) 

(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など) 

(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当 

となっています。(参照:厚生労働省 最低賃金の対象となる賃金)現在の月給者・時給者につき、新しい10月からの最低賃金に違反しないかを確認しましょう。 

 

上記を確認した後に、将来の賃上げ傾向を想定した際、来年度以降の賃金体系を考える必要が必ず出てきます。これほど最低賃金が上がった場合に生じてくる現象としては、以下が想定されます。 

・医療事務、受付、総務経理、送迎等の求人の相場が引きあがる可能性が高い 

・上記に伴い、上記の職種の方たちと上記以外の専門職(有資格者)の賃金の格差が縮まる 

・採用難に伴い、全体的な初任給水準が引きあがる可能性が高く、初任給水準が高い職員が入社した場合に、既存従業員から新しい求人を見て自分との賃金格差がない事から、自分の賃金への不満が発生する 

・既に作っている賃金表が合わない(もしくは最低賃金割れで使えない)といった状況が発生し、賃金表の意義が損なわれる 

といった恐ろしい連鎖が始まります。最低賃金にひっかかるところを対処療法的にアップする、というやり方ではいずれ限界が来ます。基本給に賞与や退職金が結びついている医療機関も少なくありません。基本給が引き上げられず、調整給といった項目で最低賃金を調整していくのは全く求人の見せ方にもプラスになりません。 

 上記のような問題点が発生している医療機関は、賃金体系全体を考え直す時期が迫っています。 

石井 洋(いしい ひろし)

M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。